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執筆者の写真くま ぼん

[日本の祭り]佐賀県の長崎くんち

 10月7日の昼間。諏訪神社より仮宮に下られた神輿の列に続き、大きな傘鉾のパレードが行われる。「もってこーい」「ふとうまわれ」などの掛け声と共に1つあたり100kgを超すという傘鉾群が一斉に回転する様は力強く、ギリギリまで残った夏の暑さを吹き飛ばすような勢いだ。「阿蘭陀万歳」や「御朱印船」などに代表される特徴的な演し物は、17世紀より対外貿易の窓口であった長崎の歴史を感じさせる。


 佐賀県長崎市で行われる「長崎くんち」は、元々は地元の諏訪神社で行われる祭礼であった。1634年に諏訪神社神前にて謡曲「小舞」の舞が奉納されたことを発端とするが、かかる諏訪神事の奨励は長崎奉行の肝煎りで行われていて、その目的は隠れ切支丹の鎮圧・弾圧にあったと考えられている。当時は旧暦9月7日〜9日に行われていたが、万始の改暦に伴って月遅れの10月になって今に至る。1654年には出島のオランダ人が、1692年には唐人屋敷の中国人がそれぞれ見学を許され、1846年には「江戸町の兵隊さん」すなわちオランダ軍楽隊が参加するに至った。なおこの「江戸町の兵隊さん」は江戸町兵式訓練として長く残ったが、1934年をもって最後となった。その他御一新期の混乱の中では全ての奉納踊りの中止などもあったが、間もなく復活し戦時を除いて継承されている。なお「くんち」の語源は諸説あるが、9月9日の重陽節が伝わった際に「9日(くにち)」が「くんち」に変化して祭礼日それ自体を指すようになった──とする説が有力である。

 奉納踊りもさることながら、行列して巡行する傘鉾を忘れてはならない。同様のものは7月に拙稿で紹介した祇園御霊会の山鉾があるが、あちらに比べてこちらの傘鉾は文字通り傘の形を遺していることに特徴がある。一つ当たりの重量は100kg超え、物によっては130〜150kgにもなるというが、驚くべきはこの重量ではなく、巡行時にこれを持つのはたった1人である点にある。バランスを保つために傘の心棒最下部には一文銭が2貫文〜3貫文を下げるという。なぜこれだけの重量に至ったか、それは傘に種々の装飾やからくり細工を施すためだという。例えば桶屋町の傘鉾には時計台を背負う白象が乗っているが、この時計の針は動くし、象は鼻を巻き上げるし、時計台に座るオランダ人は鐘を鳴らすのである。このからくりは1772年の製作であると伝わり、傘鉾の巨大化もこの頃から起こったようである。現在の傘鉾は1人で持てる最大サイズとも言われており、これが複数練り歩くパレードも圧巻の一言であろう。


 祭りは10月7日から9日まで続く。未練がましく残った夏の暑さを振るい落とせば、西南地方もようやく涼しくなってくる。

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