演歌歌手の嘉門翁頼氏が主演を務めたコメディ映画「オラの村がこんなに田舎なわけがない」の封切りから1ヶ月。奥羽地方のみの上映だった作品の公開は全国に拡大し、地方の嘆きが大きな共感と笑いを呼んでいる。
映画の舞台になったのは南部県の沼宮内町。町長の飯田玄人氏は当初撮影、「確かにここは風光明媚な農村集落と言われればそうですが…。嘉門さんの出身は津軽だし、何もわざわざここで撮影しなくても、似た様な地域はどこにでも…」と難色を示したと振り返る。
しかしメガホンを取った監督の梅津顕治氏は「確かにただの田舎なら全国どこにでもあるでしょう。しかし私は南部県でこの映画を撮りたかった。南部県には私の思う理想の舞台が揃っていたんです」とし、劇中に出てくる新幹線から見えるように田んぼアートを村の人が作るシーンを指摘して「奥羽新幹線は南部県を通るんですよ。私が描きたかったのは都市の発展を象徴するものと共存する田舎の風景。そうなると南部県しか選択肢になかった」と語った。
映画の思わぬヒットを受けて、嬉しい悲鳴をあげているのは他でもない沼宮内町だ。観光需要に応えるために、町の観光課は映画のロケ地をまとめたパンフレットを作成。出演者の許可も取り、映画のワンシーンとロケ地を組み合わせたパネルを設置し、観光客が主人公に成りきれる工夫で注目を集めている。
映画に出演したお笑い芸人"サルートン"のファンだという女性は「パンフレットとパネルのお陰で、自分が映画の中に入りきったように感じる。また沼宮内の魅力が分かって、何度でも訪れたい」と語る。
今回のヒットの裏側について、映画評論家の田中久氏は「オラ村は、地方と都市部の社会格差が顕在化する現代社会にとてもマッチした作品。特に映画の本筋である地方の奮闘をコメディタッチに描いたことが、地方の人から共感を集める一方、都市部からは興味を持って迎え入れられた」と指摘し「監督自身が地方の出身だということも映画のヒットの一つだと思う。都市部の生活に慣れているような監督だと、どうしても地方を描く時に嫌味っぽくなってしまうことがあるけど、この映画にそれはなくて安心してみられる」と評価した。
また地方創生に詳しい、学校大学の荒川清花准教授は「映画は沼宮内町を丁寧に、良いところも悪いところも偽りなく描いている。"聖地巡礼"がブームになる昨今で、この映画をきっかけに町を訪れた人にとっては、映画の世界がそのまま出てきたような感動を与えたのではないか」とし、またロケ地選定について「執政、首相経験者をそれなりに輩出し、近代日本の立役者という自負がある一方、まだ地方という意識も残る南部県の都市を映画に活用したことが結果的に映画に深みを持たせている。これは監督の妙だと思う」とした。
奥羽地方を描いた話題作"オラ村"は全国の劇場で今年いっぱい上映される予定。
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