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[第3回]微睡の舷窓から


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 「ナポリを見て死ね」。これほどイタリアの観光に寄与した格言もないだろう。古代を代表する哲学者ゲーテの一言である。当時の人口から考えるに「ナポリを見ずに死ぬとはなんと勿体無いことか」程度の意味合いだろうが、やはり見て死ねとまで言われると気になるというものである。


 しかし私は残念ながらナポリに行ったことがない。そもそも欧州圏に余り縁がない人生を送ってきた。大学は北京の出身だったし、卒業後も日本と清華の往復を繰り返す毎日。ライターと称した旅行道楽者になって以降も、もっぱらアジアやアフリカの旅行ばかりだ。

 思い返せば、高校時代にイタリアがとても好きな友人がいた。大学はもちろんイタリアの大学に留学をしていたし、飼い猫は偶然にもナポリという名前にしていた。今でも繋がりはあるが、相変わらず夏はイタリアで長期休暇を取る優雅なバカンスを過ごしているみたいで、毎年この時期になるとサラミか何かを贈ってくれている。私もお返しにと何か適当に酒でも贈るが、ワインで有名なイタリアに対して日本酒を贈るのは些か勝負にならないのではないだろうかと悩んでしまう。


 さて、一応旅行ライターの端くれみたいにやっているのだから、私なりの「ナポリを見て死ね」を考えなければならない。振り返ればいろいろなところを回ったが、どこもとても素晴らしくて優劣が付けられない。日本だけで見ても素晴らしいところはとても多く、どこか一つを見て死なれては困るので、是非自分のお気に入りの地を見つけるまでは死にたくないと思ったが、これではゲーテ先生に呆れられてしまいそうだ。


熊井 スーヤン

 ジャーナリスト・小説家。北京外事大学卒業後大江戸テレビ北京総局に勤務。旅行記『鴨緑江の街角』で大森旅行文学賞受賞。退社後は旅行ライターとして活動中。近著に『日本徒然紀行』など。

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